「アップライト」という言葉、聞いたことはあるけど実際どんな処置かピンとこない…
そんな先生方もいるかもしれません。
アップライトとは、簡単に言うと「傾斜した歯軸を咬合平面に対して垂直に立て直す処置」です。
アップライトは近心に傾斜した大臼歯に対して行われることが多く、補綴前処置のMTM(部分矯正)としても広く用いられます。
この記事では、アップライトの基礎知識、処置が必要となる典型的ケース、ワイヤー矯正を用いた具体的アプローチ、補綴精度と予後を高めるポイントまでを体系的に解説します。
アップライトが必要になる典型的なケース
アップライトがよく実施されるケースをご紹介します。
たとえば、下顎6番がう蝕や歯周病、破折などで抜歯され、そのまま保隙処置をせずに放置していた場合です。
時間が経過するにつれて、その後方にある7番(第二大臼歯)が近心傾斜してきます。
このように中途半端にスペースが潰れてしまうと、
・補綴処置(インプラント・ブリッジ)の設計が難しくなる
・補綴の予後が悪くなる
・7番の切削量が大幅に増える
など、臨床上さまざまな問題が発生します。
そのため、補綴前に傾いた歯を起こしておく=アップライトが非常に重要です。
アップライトの方法と矯正的アプローチ

アップライトの方法は症例や歯列の状態によってさまざまです。
ワイヤー矯正によるアップライトの代表的なテクニックは、次の3つです。
症例に応じて適宜組み合わせます。
- ベンドの付与(改善したい歯の手前にベンドを加える)
- 2本のワイヤーを併用(もう1本のワイヤーでピンポイントに力を加える)
- コイルなどの使用(遠心傾斜させるような力)
このように、メインのアーチワイヤーだけでなく補助的なテクニックを用いて、傾斜歯に対して適切な方向、適切な力を加えていきます。
アップライトは一見シンプルな処置に見えますが、「どの方向に」「どれくらいの力を」など、細かい判断と技術が必要な処置です。
とくにMTM(部分矯正)では、動かしたい歯と動かしたくない歯があるため、事前の計画が大事になります。
アップライトが補綴の精度を高める
アップライトをしっかり行うと、以下のようなメリットがあります。
・補綴設計がしやすくなる
・支台歯の削除量を最小限にできる
・補綴後の清掃性や安定性が向上する
アップライトは、補綴の精度と予後にも大きく関わってきます。
まとめ:アップライトは「予防的補綴」の一環
アップライトは、単に歯を起こす処置ではありません。
将来の補綴処置の成功を左右する、非常に戦略的な前処置です。
症例ごとに最適な方法を選択し、力のかけ方や方向を工夫すると、短期間で確実に傾斜歯を起こすことが可能です。
「傾いたままで補綴する」前に、一度アップライトという選択肢を考えてみてはいかがでしょうか。
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今後も技術を磨きながら、より良い矯正治療を実践していきましょう!
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