矯正治療で歯を大きく動かす場面はよくあります。
とくに「抜歯スペースをどう閉じるか?」という治療ステージでは、どの“メカニクス”を選択するかによって、治療の成功が左右されます。
今回はメカニクスの中でも、「ループメカニクス(loop mechanics)」について解説します。
ループメカニクスとは?
ループメカニクスとは、ワイヤーにループを組み込んで力を加え、スペースを閉じる方法です。
代表的なのは、抜歯したスペースを、ワイヤーの“ループが閉じる力”を使ってゆっくり引き込んでいく治療法です。
見た目にわかりやすく、操作性にも優れているため、治療の意図をコントロールしやすいのが特徴です。
具体例:4番抜歯症例におけるループの使い方

たとえば上下顎の第1小臼歯(4番)を抜歯した症例で、次のような手順で使用されます。
この一連の力の流れが、ループメカニクスの基本原理です。
犬歯までを一気に引く場合は3番と5番の間にクロージングループを設定します。
ループの種類と設計
ループにはいくつか種類があります。
使用目的やワイヤーの性質によって設計が変わります。
- クロージングループ:閉じたいスペース部分に設置します。
- ストップループ:ループを開く時に使用します。(例:6・7番間)
この他に、ストップループの代わりにロウ着を使って補助ワイヤーを固定するケースもあります。
ループメカニクスのメリットと注意点

ループメカニクスは力のかけ方を細かく調整できる便利な技術ですが、治療の際は注意も必要です。
ここでは、ループメカニクスのメリットと、実際に使うときに気をつけたいポイントをまとめました。
メリット
ループメカニクスのメリットは次の3点です。
・力の方向、強さを精密にコントロールできる
・ワイヤー1本で左右の歯を別々に動かす操作がしやすい
・細かな調整が可能なため、治療ゴールが明確な症例に適している
注意点
便利なループメカニクスですが、正しく使わないと意図しない歯の動きにつながることもあります。
使用する際に注意したいポイントを見ていきましょう。
・ループの設計とベンド技術に高度な知識と練習が必要
・患者さんによっては、ループによる違和感や清掃性の低下が生じる
・無計画にループを組むと、意図しない歯の動きや不安定な力をかけてしまうリスクもある
スライディングメカニクスとの違い
ループメカニクスは、あらかじめ“ベンド(曲げ)”を加えたワイヤーを使って歯に力をかけていく方法です。
一方スライディングメカニクスは、まっすぐなワイヤーの上をブラケットがスライドする仕組みで歯を動かしていきます。
ループメカニクスとスライディングメカニクスの比較は下記のとおり。
項目 | ループメカニクス | スライディングメカニクス |
---|---|---|
使用ワイヤー | ベンド入り(ループあり) | ストレートワイヤー |
力の発生 | ループが閉じる反作用 | ブラケットがワイヤー上を滑る |
コントロール性 | 非常に高いため逆に注意も必要 | 摩擦の影響を受ける |
患者の違和感 | ややあり | 少なめ |
設計・操作 | 難易度高 | シンプル |
スライディングメカニクスについては、以下の記事で詳しく解説しています。

まとめ:ループメカニクスは「戦略的なコントロール」が鍵
ループメカニクスは、計画的に力をコントロールしたい症例に非常に有効です。
ただし、設計・屈曲・装着・調整のすべてに技術が求められるため、経験と知識の積み重ねが欠かせません。
矯正治療の精度を高めたい方は、ぜひループメカニクスも学んでみてください。
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今後も技術を磨きながら、より良い矯正治療を実践していきましょう!
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