矯正治療を始めたばかりの先生にとって、「トルク」という言葉は少しとっつきにくいかもしれません。
しかし、トルクの概念はとても大切で、とくに抜歯矯正を行う上では必須の知識です。
今回は、トルクとは何か?から、どんな場面で使われるのか、注意点までをわかりやすく解説していきます。
トルクとは何か?
矯正における「トルク」とは、歯冠を回転中心として、歯根の向きをコントロールする力のことです。
言い換えると、「歯冠をほとんど動かさずに、歯根の位置だけを変える」ような力を加えることを指します。
例として次のようなイメージです。
- 歯冠を手でつかんで固定する
- 歯根の方向だけをぐっと倒すように動かす
トルクは目には見えづらいですが、歯並びの“質”を決める重要な操作です。
トルクの方向と名称
トルクには方向があり、どの部位をどちらに動かすかで名前も変わってきます。
部位 | 動かす方向 | 呼び名 |
---|---|---|
歯冠(クラウン) | 唇側(ラビアル) | クラウンラビアルトルク |
歯根(ルート) | 舌側(リンガル) | ルートリンガルトルク |
歯冠(クラウン) | 舌側(リンガル) | クラウンリンガルトルク |
歯根(ルート) | 唇側(ラビアル) | ルートラビアルトルク |
このように方向×部位でトルクの種類を整理できます。
ワイヤー矯正でトルクをかけるには

ワイヤー矯正でトルクを効かせるためには、次の2つの条件があります。
スロットにぴったり合うワイヤーが必要
トルクは、ワイヤーがブラケットのスロット内でしっかりフィットして初めて効力を発揮します。
細いワイヤーではスロット内で遊びが大きく、力がうまく伝わりません。
適度な剛性が必要
「歯冠をつかんで歯根を動かす」というイメージ通り、ある程度の力が必要です。
軟らかいワイヤーではこの動きができず、太くて硬いワイヤーが求められます。
マウスピース矯正でのトルク操作

マウスピース矯正でもトルクは可能ですが、難易度は高いです。
その理由は3つあります。
- マウスピースの素材はワイヤーほど剛性がない
- 歯冠全体をしっかりつかみきれないことも多い
- アタッチメントの工夫が必要
マウスピース矯正では、計画通りにトルクがかからないこともあるため、十分なモニタリングと再設計の準備が必要です。
なぜトルクが大切なのか?
とくに抜歯矯正では歯の移動量が大きいため、歯根の向きまでしっかりコントロールすることが求められます。
トルクがうまくかかっていないと…
・見た目の仕上がりが不自然になる
・歯根が骨の外に飛び出すリスクが高まる
・咬合にも悪影響が出る可能性がある
矯正の“仕上がり”を左右する重要なポイントとなるため、トルクの理解は避けて通れません。
まとめ
- トルクとは歯冠の位置を固定したまま歯根の方向を変える力のこと
- ワイヤー矯正ではサイズ・剛性がマッチしたワイヤーが必要
- マウスピース矯正ではトルク操作が難しく、設計の工夫が重要
- 正しいトルクの理解と操作が、矯正治療の成功を左右する
初心者ドクターにとっては難しそうに見える「トルク」ですが、理解すれば診断やワイヤー選択の根拠が見えてきます。
矯正力を上げるためにも、まずは基本からしっかり押さえていきましょう!
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今後も技術を磨きながら、より良い矯正治療を実践していきましょう!
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